(左:EPURE 右:ESCAPE)

1909年に5日間の競技として、1911年には公式に6日間の競技として開始された「SSDT(スコティッシュ6デイズトライアル)」。伝統のエンデューロ競技「ISDE(インターナショナルシックスデイズエンデューロ)」も1980年代までは「ISDT(T=トライアル)」と呼ばれていたように、明確なトライアルのルールが誕生するまでは、SSDTはISDEと同様にライダー、マシンの技量が試される場であったとのことです。その後、スピードで順位を競うISDE(エンデューロ)と、足つきなどの減点方式で順位を決めるSSDT(トライアル)」が明確に分かれていくことになるのですが、何れにしても、ISDEにしろSSDTにしろ、過酷な競技というわけです。

前置きが長くなってしまいましたが、そんなSSDTに参戦したフランスの電動バイクメーカー「エレクトリックモーション(以下EM)」。国内では日本のトライアル界のレジェンド、成田匠さんの「トライアルスナリタ」で取り扱われています。

訂正:輸入元は成田匠さんのTERRA & TRIALで行われ、販売を希望されるお店へ卸しているとのことです。成田さんのご実家でもあるトライアルスナリタも卸先の1店とのことです。ここにお詫びし、訂正させていただきます。

ダートスポーツ最新号7月号でもご紹介していますが、成田さんがEMで成田電動フェスに参加されましたので、お話などを伺いました。

かつてストレンジモーターサイクルの和泉拓さんが「今までに乗ってきた電動車の中でEMは格別でした」と話されていて、気になっていたEMというメーカー。成田さんはEMの開発に古くから携われているそうです。
そもそものきっかけは「3.11東日本大震災」で、ガソリンが購入できなくなったこと。「親の代からずっとトライアルの競技と普及で生活してきましたが、ガソリンが買えないだけで立ち行かなくなるスポーツなんだと危機感を感じたんです。そんな折、フランスのフィリップ・アレステン(EM社長)が電動トライアル車を開発していたので、メンバーに混ぜてもらえないかと相談したんです。2013年にようやく車両ができました。以後は度々招集がかかり、実は今回のSSDTも『ベテランが必要なんだ』とか言われて『まじか、勘弁してよ』と思いました(笑)。いや出たら、長年の知恵と経験でなんとかするじゃないですか(笑)。」51歳の成田さんにはハードすぎたか、無事辞退されて(笑)、同日にこの成田電フェスに来場されたのでした。
「気になるから一睡もしてません(笑)。でもついに完走を果たしたんですよ」と安堵の表情でした。


今回持参された「EPURE」と「ESCAPE」両車の違いはバッテリー容量で、「ESCAPE」は長距離走行用としてバッテリー容量が大きい仕様。最大の特徴は、クラッチでパワーを溜めて一気につなぐトライアル走行ができることです。トライアルでは短い助走で大きな障害物をクリアするために半クラ操作が必須です。ギヤは固定、トライアル用のギヤ比となっています。開発当初はバッテリーを簡単に外せる仕様だったそうですが、あるライダーが激しく崖落ちした際にバッテリーは外れなかったものの、ステーが歪んでしまったそうです。そこで、衝撃に対して頑丈な作りに徹し、余分なクリアランスなどもなくしているのだそうです。



デモ走行でも華麗なトライアルテクニックを披露してくれました!




親指でモード切り替えができます(緑:125cc、青:250cc、赤:300cc相当)。
また、フライホイールも3段階変えることが可能、モーターのMAX回転からの急激な落ちを慣性重力を効かせてアシストしています。2022モデルからは上り坂の回転アシスト機構がついています。これはアクセルの戻しすぎの失速や、そこからの不要なガバ開けのリスクもなくしてくれるようです。こちらは不要な時はカットすることもできます。また、エンブレがかなり効くので慣れが必要だそうですが、回生ブレーキによるバッテリーチャージも可能とのことです。




安全面に関しては、マグネットが外れることで、電力は通じていながらも車両を停止させる機能がついています。スタンバイモードもあり、音や振動での警告をしてくれるのだとか。どんな状態でも確実に電力をオフにできる安全性を重視しているそうです。

EMの歴史を紐解くと、スコルパが倒産しシェルコ傘下となった折に、その社長であったフィリップ・アレステン氏がEMを起業。2010年、小さなガレージから始めたブランドで、2013年に最初の競技車両の形ができ、2018年に最初のプロトモデルが完成。2020年から市販開始されています。

「僕たちがテストしているので、かなりハードな環境でやってきました。時には天地逆さまでハンドルを離せないような極端なシチュエーションもありますが、そんな中でもトラブルを起こさない努力をしているんです。笑える話ですが、シュノーケルをつけて水の中へマシンごと入ったメンバーもいます。1回目はバイクが浮いてしまったのでタイヤの空気を抜いて再トライしたようです(笑)。フランスならではですね。」
「ただ、このEMだけを販売している会社ですし、基本的に現実路線です。電動ということで色々な機能を盛りだくさんにするのではなく、確実性や安全性を重視しています。フレームのたわみのテストでは、フロントフォークをモトクロスタイプに替えて激しい走行をするとフレームが持たないことがわかりました。ESCAPEはあくまでもトライアルモデルをロングライド仕様にしたものなんです。(ちなみにユーロ5認証済みで国内での登録が可能)」



日本のトライアル界のパイオニアである成田さんは、穏やかな表情で子供達を指導。その表情から想像できないスーパーテクに大人も子供も感動!

「EMは若いスタッフが多いんです。今年のSSDTは順調に走りきりましたが、ゴールした瞬間に『来年は10以内、再来年は優勝!』と意気込んでます(笑)。」

ぜひ実車を見る機会があれば、EMをチェックしてみてください。

成田電動まつり 電フェスの模様はダートスポーツ7月号で掲載中です!

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