大好評のシリーズ、エルズベルグロデオに向けた田中太一全力月間です。vol.2は、これも伝説。2011年、田中はカート・キャッセリの元で修行を積みました。スピードという武器を手に入れた田中はみごとエルズベルグの予選を成功。「そうはいっても、そこまで速くはないでしょう?」という見方が大半だった、その年のSUGO2デイズエンデューロで、エンデューロファンは完全に田中に釘付けになりました。誰もが倒せなかった鈴木健二を、本当に正面からぶちあたって倒せる人間が、モトクロス上がり以外にあらわれたとは…。大きな事件だったんです。

2011 SUGO 2デイズエンデューロ PHOTO/YUSUKE KASHIWAZAKI

2011 SUGO 2デイズエンデューロ PHOTO/YUSUKE KASHIWAZAKI

 エルズベルグロデオから帰ってのち、田中太一はSUGO2デイズエンデューロで鈴木健二を破る、と公言した。それも、相手の独壇場ファイナルクロスでちぎってみせる、と。今回、それはかなわなかったが終わってみれば、負けたのはファイナルクロスだけだった。エンデューロテスト、エクストリームテスト、いや、クロステストでさえも田中は鈴木を下した。マシンを暴れさせて豪快に走る去年までの太一はいなかった。ベリースムーズ、低回転域でしっかりスピードをのせて、そして誰もが考えつかない3D的なラインを、ミスなくかっとんで行く。見るからに、一人だけ違う。今までは鈴木健二がその立場だったが、もはやそれを遙かに上回って、一人だけ別世界なのだ。
「ライダーとしては、めっちゃ悔しいですね。ファイナルクロス、勝つってあれだけ言ってましたから。でも男田中太一としては魅せられたと思います。
 去年の成績からいったら考えられないでしょ? でも、このギャップこそがオレなんですよ。それを楽しみにお客さんはくるわけでしょ。やれないことなんてないんですよ。それを知って欲しいだけです」
人はこうも変われるものなのか。田中太一はライディングなどではない、なにか人生の大切なものを、我々にみせようとしている。そんな気さえしてくる、2日間だった。

ドラマチック・シーズン

 JECは全8戦中5戦の有効ポイントで、2デイズのステージでは1日ごとが1ラウンドとして数えられる。つまりSUGO2デイズエンデューロは第7戦と第8戦。タイトルの鍵を握るのは、勝利数だった。復帰以来、僅差で1位を欲しいがままにしてきた太田真成は、ここでの1勝があればタイトルが非常に近くなる。そういう意味で第6戦がおわった時は有利におもわれたのだが、ことはそう簡単ではなかった。
 鈴木健二、田中太一の参戦である。この二人が圧倒的な実力をもつことで、1位が限りなく遠くなった。そうなると、どういうことになるのか。DAY1、正しくそれが計算できていたライダーはいなかったのではないか。それほど複雑な今シーズンであった。SUGO当日、DAY1は珍しく雨がふらずに晴れた。二人ともに、「大きなミスもなく、期待できる」という。結果は太田の大勝。太田は3位、内山は6位となった。計算してみると、DAY2で太田は5位以内でタイトル(内山が優勝した場合は別)だった。
 DAY1の夕方、ついに懸念されていた雨がふりはじめた。その量はかなりのもので、時間を追う毎にコンディションは悪化する。リエゾンのほとんどは大幅にカットされ、DAY2がスタートした。
 太田は言う。「太一くんや健二さんの速さはスゴイ。正直それに触発されてしまいました。結果、崖落ちしてしまったんです」おちついて走れば、太田の実力であれば5位以内は固かっただろう。しかし、この崖オチはあまりに痛い。2分30秒ほどのタイムロス、残されたのはファイナルクロス。ここで稼いでDAY2を5位でおさめればOKだ。しかし、この僅差のなか5位は相当に苦しく、ファイナルクロスを2位で終えるものの、総合すると8位。アベレージで勝る内山は、JEC始まって以来追い続けてきたタイトルをようやく手にすることができたのだった。

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