太一×ERZ全力月間 vol.12 知られざる太一少年時代 from 佐藤敏光

俺が田中太一というトライアルライダーに初めて出会ったのは、もちろん、ずっと、ずっと、昔の頃。彼が、まだ、子どもの頃でした。

場所は、ヨーロッパでした。当時、俺は、世界選手権のモトクロスやロードレース、エンデューロやトライアルなどを追いかけて、毎週のように撮影をしてました。その頃、トライアルの世界選手権には、成田匠選手が出場しており、そして、黒山一郎さんも踏ん張ってました。黒山さんは、息子さんの健一くんと共に転戦。その後、黒山さんは、将来のトライアル選手の育成に全てを注ぎこみ、日本全国から有望な子どもたちを引き連れて、自転車トライアルの世界大会を転戦開始しました。そのメンバーに田中太一がいたのです。他にも藤波(のちに世界チャンピオンになりましたよね)や、多くの有望な子どもたちが、汗だくで、ヨーロッパの地で奮闘していたのでした。

田中選手は、後にトライアルの世界選手権に、家族と一緒にやってきました。もちろん、全てが実費という厳しい世界です。資金がなければ、腕があっても、転戦すら不可能であり、トップに名を連ねることは不可能。スポンサー獲得という生易しい世界ではありません。転戦する資金はもちろん、マシンのパーツ、移動のガソリンや宿泊、食事など、1シーズンの滞在費用は膨大なものです。

まして、プライベーターとして、日本からの参戦というのは、想像を超える金額となりますからね。一度や二度の結果を出したところで、スポンサーはついてくれません。チャンピオンを獲得したら、ついてくれます。それまでは、全てが自腹という世界なのですから…。もちろん、田中選手も奮闘してました。でも、資金は続きませんでした。それでも、全日本に復帰してからも、ヨーロッパで、体で得た全てのモノを発揮していたと思いますが、やはり、プロのライダーとしての稼ぎは、得られなかったと思ってます。田中選手の挑戦は、ここからスタートしたのだろうと思ってます。どうしてライダーとして稼げないのか。どうして、日本にはモータースポーツという文化が根付かないのか、彼なりに試行錯誤のトライが始まった。自分でやるしかない。体を張って、アピールするしかない。頂点に立つしかない。それがエルズベルクへの挑戦なのだと…

佐藤敏光
プロフォトグラファー。ステファン・エバーツをとらえ続けた写真集「EVER」など。モトクロス世界選手権を中心に家族でヨーロッパを転々としながら取材旅行を敢行しつづけた活動は、誰にも超えられるモノではない